2005年05月26日

番外編[歴史教育問題]「教科書も読まずに批判するとは」

 日本の歴史教科書のいったいどこに問題があるのか。そんな疑問がわいてくる。

 中国の胡錦濤国家主席は、訪中した自民党の武部幹事長らに「近年、目にしたくない動き」として、日本の指導者の靖国神社参拝、台湾問題と共に、「歴史を美化する教科書」を挙げた。

 中国政府は、今春、文部科学省の教科書検定に合格した8社の中学歴史教科書の中に「侵略を否定し、美化する右翼の歴史教科書が含まれている」と、批判し続けている。

 しかし、日本の教科書のどの記述が、「侵略を否定し、美化」しているのか、具体的な説明はない。

 町村外相が先に、参院外交防衛委員会の答弁で明らかにしたところによると、日本の教科書を批判した中国の李肇星外相は、中身を読んでいなかった。

 これほどおかしな話はない。「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーが執筆した扶桑社の教科書について、「バランスを欠いている」と批判する日本の一部マスコミの主張を、中国の指導者たちは鵜呑(うの)みにしているのだろうか。

 そもそも、歴史を記述する際の「バランス」とは何なのか。

 例えば、現行の8社の中学歴史教科書のうち、扶桑社以外の7社の教科書には菅原道真、二宮尊徳、東郷平八郎といった人物についての記述がない。昭和天皇や柿本人麻呂が登場する教科書も、それぞれ扶桑社を含め3社に過ぎない。

 これらの人物には全く触れないまま、朝鮮独立運動に参加した柳寛順(ユ・ガンスン)という少女を取り上げている教科書もある。

 扶桑社の教科書を批判する一部マスコミは、こんな教科書の方が「バランス」がとれているというのだろうか。

 中国の教科書の近代史にかかわる部分は、特に日本の侵略関連の記述に重点を置いている。

 教師用の指導要領には、例えば「南京大虐殺」について、「残虐性と野蛮性を暴露する」「日本帝国主義への骨髄に徹する恨みをしっかり刻み込ませる」などと記されている。

 先の日中外相会談で、町村外相は、中国の教科書について「事実関係が不正確な個所や残虐な表現がある」「日本の戦後の平和国家としてのあり方について記述が少ない」と指摘した。

 これに対し、李外相は教科書の内容には触れずに、右翼教科書と混同するものだ、と抽象的な反論に終わっている。

 中国側がこうした姿勢を取り続ける限り、日中間で教科書問題の解決などあり得ないのではないか。

(2005年5月26日1時36分 読売新聞)
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